土地に古くから息づく「よきもの」と、現代の感性から生まれた「いいもの」。
UDS HOTELSが大切にしてきた、まちの歴史や文化を紐解きながらを歩いてみる。すると、まちの新しい表情が見えてくるかもしれません。
華やかな表通りから、静かに時が止まったかのような裏路地まで。まちが紡いできた時間のあわいを歩き、まだ知らない新たな土地の魅力を探しに出かけましょう。

空へと伸びる高層ビルの合間を縫うように、多様なカルチャーと個性が共存し、変化を続けるまち・渋谷。
今回このまちで旅を共にするのは、千葉県鴨川市の山間で、ハーブやエディブルフラワーの栽培を通じて里山の循環を形にする「苗目」の井上隆太郎さんです。日々、土や植物が刻む自然のリズムとともに生きる井上さんの目に、ダイナミックに時が流れる渋谷のまちはどう映るのでしょうか。都会の喧騒と里山の静寂。
その正反対の視点から、all day place shibuyaを中心に、渋谷で時をめぐる旅をしてもらいました。

井上隆太郎

/  苗目 代表

1976年、東京都生まれ。園芸商社バイヤー、パーティやイベントへの生け込み装飾や造園を経て、鴨川へ移住。その後はエディブルフラワーやハーブを無農薬・無化学肥料で栽培する傍ら、里山の再生やカフェ運営、公園の開園などの自然に近いコミュニティ作りに取り組む。

Day 1.

CULTURE
OLD

小さなビルの中に広がる、古書とアートの小宇宙
─ Flying Books

渋谷駅の迷宮を抜け、駅前の喧騒をかき分けてビルの階段を登る。すると、ここが駅のすぐ裏であることが嘘のようなほど、心地のいい古書にあふれた世界が広がっています。ここは知る人ぞ知る、渋谷の小さな名古書店「Flying Books」。オーナー山路和広さんが、先代から続くビルの中で、音楽、写真、アート、哲学など、美と知の好奇心をくすぐる叡智を集積し続けている場所です。

世界中から空を渡り、この小さな場所に集められてきた本が並ぶ棚は、どこか見知らぬ旅先を訪れた時のような、懐かしさと刺激にあふれています。ダウンライトに照らされたこじんまりとしたカウンターでは、コーヒーで一服することもできます。

Flying Books

東京都渋谷区道玄坂1-6-3 2F

https://www.flying-books.com/

「ここら辺は懐かしいな。すっかりまちも変わったんですね」。
かつて渋谷区で暮らしていた頃の記憶を辿るように、のんびりと歩き進める井上さん。ハチ公口から文化村通りを通り抜け、歩くこと約10分。「奥渋」と呼ばれる神山町周辺のエリアへと向かいます。

NEW

「本がある生活」のはじまり。人と本を繋ぐ場所。
─ SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS (SPBS)

どこか懐かしい商店や、落ち着きのあるカフェが立ち並ぶ神山町商店街。

その先に現れるガラス張りの店が「SPBS」です。ここは本屋でありながら、単に話題の書物を探す場所ではなく、「本がある日常」に出会う場所。スタッフの自由で創造的な選書による本と一緒に並ぶのは、アパレルやアクセサリー、文具、雑貨に加えてギャラリー空間も。読書家もそうでない人も、ついふらっと引き寄せられてしまうモノやコトが迎えてくれます。

駅からわざわざ足を運びたくなるのは、いつもの暮らしがちょっぴり愛おしくなるような、小さな出会いと発見があるからなのかもしれません。

※掲載写真は取材時に撮影したものです。現在の展示・フェア内容とは異なる場合があります。

SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS (SPBS)

東京都渋谷区神山町17-3-1F

https://shibuyabooks.co.jp

FOOD
OLD

ゆっくりとした時間が流れる、レトロな渋谷のオアシス。
─青山壹番館 渋谷店

高層ビルやオフィスが立ち並ぶエリアで、変わりゆくまちの景色を静かに見守ってきた純喫茶「青山壹番館 渋谷店」。

趣のある木製の扉を開けると、そこには外のまちに流れるスピードとは切り離された、ノスタルジックな空間が広がります。アンティーク照明がやさしく灯り、洋風の革張りの椅子が並ぶ店内は、深いコーヒーの香りに満ちています。

この地で開業して53年。当時から変わらずにポコポコと心地いい音を立てて、一杯ずつ丁寧に淹れられるサイフォンコーヒーを求めて、今日も朝から多くの人がこの店を訪れます。日替わりのサービスセットを頬張り、温かなコーヒーカップを片手に窓の外を眺めていると、渋谷に居ることを一瞬忘れてしまうような感覚に。移り変わる時代とまちの中で、この空間だけで感じられるゆっくりとした時間を味わうことができます。

青山壹番館渋谷店
東京都渋谷区東1-4-27

NEW

懐かしい、でも新しい。アナログな音との再会。
─ CASSE

「あ〜、懐かしいなブルーハーツ。これはね、サブスクでは聴けないんですよ」

そう無邪気な表情を見せながら、井上さんが棚からそっと引き抜いたのは「THE BLUE HEARTS」のカセットテープ。

訪れたのは、ストリーミングで音楽を聴くことが日常となった現代に、あえてカセットテープでの音楽体験を届けてくれるカフェ「CASSE」。一人一台貸し出されるカセットプレイヤーに、慣れた手つきでテープをセットする井上さん。里山での作業中にも音楽を聴くそうですが、カセットテープに触れるのは随分久しぶりのこと。元倉庫をリノベーションしたというインダストリアルな空間で、アナログな質感やざらついた音質にじっくりと耳を傾けます。

かつては音楽カルチャーの聖地でもあった渋谷。その片隅で、時代を巻き戻すように若者たちがカセットテープを回す光景は、新しいような、どこか懐かしいような。そんなノスタルジックな時間が流れているようでした。

CASSE

東京都渋谷区渋谷3-2-13 高橋ビル 1階
https://casse.cafe/

Day 2.

all day place shibuya

この旅で滞在したのは、宮下公園のすぐそば、渋谷駅から約徒歩5分の「all day place shibuya」です。窓辺に腰掛け、コーヒーを片手に出発の支度をする井上さん。いつもの旅の相棒だという文庫本をそっとバッグへと詰め込みます。
ふと視線を外に向けると、大きな窓の向こうには、高く空にそびえ立つビル群が望めます。刺激的なまちの様子と、ミニマルで心地の良いプライベートの安らぎ。都会の中心らしいコントラストを味わいながら、いつもの日常を始めるように、まちへとまた繰り出します。


東京都渋谷区渋谷1-17-1
https://www.uds-hotels.com/all-day-place/
https://www.instagram.com/alldayplace_shibuya/

NATURE
OLD

季節を巡る、古より続く都会の社。
─ 金王八幡宮

渋谷のビル群の谷間に突如として現れる深い森の社。1092年よりこの地に鎮座する「金王八幡宮」は、渋谷の真ん中でありながら、穏やかな自然と歴史を感じられる場所です。

およそ900年にわたり、このまちの移り変わりを見守ってきた渋谷の氏神さま。境内に足を踏み入れると、吹き抜ける柔らかい風、鳥のさえずり、草木の揺れる音がそっと身を包みます。春には爛漫とした桜が、夏には心地の良い緑が広がり、秋から冬には黄色く色づいた銀杏の葉がはらはらと舞い散ります。

朱色の映える色鮮やかな拝殿に浮かぶ彫刻を眺めたり、草木の香りを深く吸い込めば、ここが都会の真ん中であることを忘れてしまうような、穏やかな心地よさに満たされていきます。

東京都渋谷区渋谷3-5-12
https://www.konno-hachimangu.jp/

NEW

日本で一番小さい、植物のオアシス。
─ 渋谷ふれあい植物センター

かつて川が流れていた「渋谷リバーストリート」をたどっていくと現れる、日本で一番小さな植物園。2023年に装いを新たに、より植物を身近に感じられる場へと生まれ変わりました。ガラス張りの館内には陽の光が降り注ぎ、天井いっぱいに伸びた熱帯植物が迎えてくれます。

スタッフの案内で屋上へ足を運んだ井上さん。そこには、お茶やホップなど都会ではめずらしい植物が栽培されています。

「都会では無理だろうなって思っていたけれど、東京でもこんなに元気に育つんですね。私は、自然に近い場所で循環型のファーミングがしたくて鴨川に移住しましたが、ここでは都会ならではの植物の可能性を感じられますね」

そう語りながら、草木に触れたり、時には香ったりしながら館内を巡っていきます。

まち歩きの締めくくりには、館内のカフェへ。園内で収穫されたハーブを使った「ボタニカルピンクレモネード」を片手にひと休憩。爽やかな香りに包まれ、心まですっきりと癒されていきます。

屋上はイベント時などを除き、通常一般開放はしていません。

東京都渋谷区東2丁目25-37
https://sbgf.jp/

天まで届きそうなビル、入り組んだ新しい駅、世界中から集まる人々。目まぐるしく変わっていくまちの中にも、お気に入りの本やコーヒー、かつての下町を思わせる懐かしい商店街、そして温かな人のつながりが、今でも確かに息づいています。

大都会らしい刺激にワクワクしながら、時にはゆっくりと流れる時間の中で心を解いていく。そんな新旧のカルチャーが自然と溶け合うこのまちは、いつの時代に訪れても、まだ出会ったことのない新鮮な驚きと発見を届けてくれます。

Directed by PAPERSKY